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★小池博史★演出家・振付家・美術家・作家・写真家

by kikh
 
3/3 ひな祭りの日
 昨夜は蚊に悩まされ、カユイ、ネムイとまったく困った時間を過ごしてしまった。扇風機をつければ、蚊は退治というか、寄っては来ないだろうが、そうすると風邪を引くのは必定。我慢するしかなかった。そこで、電気を点け、動かず、蚊が寄ってくるのを待って、たたき落とす、そんなことをして1時間を過ごした。けれど、気分はいいものではない。1時間過ぎた後も、また起こされるのではないかという気持ちのために、決して気分良く寝れなかった。
 もう、ガンガーに行くのも飽きてきていて、今日はいいだろうと思っていたが、ふらふらと出て行ってしまった。その前にメルマガの原稿を書き、いや、このメルマガのテーマを「インド」と指定されていたのだけれど、とても今、旅をしている途中でインドなんて大テーマを書くことはできない。やっぱりダメで、前に指定されていたテーマに勝手に変更し、原稿書きを行う。エッセーは毎回400字原稿用紙にして6枚程度である。もうすでにメルマガを発刊して5回程度になると思うが、回数を重ねていくと楽しくなってくる。エッセーはしばしば書いてはきたが、思えば、月に二回ずつ書き続けたなどと言うことはほとんどないのだ。そういう意味でもメルマガは自分にとってもいい経験となっている。

 さて、ガンガー近辺の小道をずっと歩き続ける。すると実に日本人が多いことに驚いた。確かに、すぐに日本語で話しかけられるはずだわ、こりゃあ、と思う。しかし、決まって若者ばかりだ。30代まではいてもそれ以上はまったく見かけない。今日の昼食を取ったところでは隣に日本人の大学生がふたり、話をしていて、何でもひとりは一橋大学生、もうひとりは上智大学生らしい。あれ、俺の後輩じゃないかと、声をかけようかと思ったが、どうにも話の内容を聞いているだけで気恥ずかしくなって顔を見るに留めた。私の後輩である一橋の学生は、なんでもインドに来ることが一橋の中でははみ出し者性を表わしていると、どうも当人は自慢気に思っているようなのだ。旅することくらい大したことじゃないよ、と言いたかったが、どうなんだろう、あの英語では、結局、日本人としか話ができないんじゃないかな。まあ、そのうちだんだん、いろいろとわかってくるだろうと思いながら、微笑ましく聞いていた。
かと思うと、すごいなあと思える日本人旅人たちの話も聞こえてきた。「しばらくぶりだねえ。二年ぶりかな」「ボリビア以来?」「いや、ブエノスアイレス以来じゃない?」「懐かしいねえ」「君たちは結婚したの?」「まあ、そんな感じですね」「いやあ、俺もさもう38にもなって嫁さんと一緒に回っていると、簡単には疲れが抜けなくなってきて、夜行列車なんて無理だと感じるようになってきたよ」「昨日、後ろで話し声が聞こえたので驚いたんだよ」・・・・等々。ふたりとも奥方と一緒に、世界中を回り続けているらしい。「インドは、まったくどうってことないよね」「すごいすごいと言うけれど、普通に暮らせるレベルだよね、ここでは」・・・・ううむ、唸った。これが普通に暮らせると言うレベルだとすると、いったいどの国のどの地域がすごいのだろうか?聞きたくなったが止めた。なぜなら、日本語を話したくなかったからである。日本語での話をすると、どうも思考に余計なものが入り込んできてしまってダメなのだ。本来の目的は台本書きにある。だから、日本語は今はできる限り、書き言葉に留めている。
どうってことないインド。そう感じる感性と彼らの体験にとても興味がわいた。是非ともいろいろと文章でも書いて欲しいなあ、こういう体験をたくさんしているであろう旅人たちには。でも、いるのである。日本で数年働いては、数年旅を続け、再び帰国しては働き、旅をし、とこういう生活を繰り返す人たちが。こういう人たちは日本人たちからは疎まれるのだろうが、しかし、いろいろとやっている人たちがいるかと思うと嬉しくなる。ただ、問題は、みんな似たような顔になるということだ。インド好きは残らずインド好きの顔になっている。ヒッピー系の顔と言えばいいか。単なる旅人を続けても、面白くはなくなってくるのではないか、という疑問も起きてくる。旅の目的がなくなると、単なるエスケープでしかなくなってしまう。なぜ今、俺はここにいるのか?いたいからいるんだ、というような言い方になったらお終いだ。だから、どんな日本人とも話をしない。いや、インド人以外とは話をしたくもない。詰まらない会話に巻き込まれるのだけはごめんである。

もう道ばたでインド人から話しかけられても一切、口をきかなくなった。No thank you とすら言わない。手で追い払うだけになってしまった。バラナシの印象を聞かれたときだけは答える。Very Bad , frauds town とか。それでも街を歩くと面白い。てんで考えられないほど面白い。元気があるときは、面白すぎて、いつまでもブラブラしてしまうから、疲れが容赦なく襲ってくる。

夜になって川縁に行く。ガートをさらりと見て、インターネット屋に入った。山のようなメール群に頭が痛くなり、次々と読み、返事を書かなくてはならないというのに、ともかく反応が遅い。
その中につくばの方々から多くのメールがあった。芸術監督を降りることになったことを告げたところ、みんな、「何とかしたい」と言ってくれる。芸術監督を降りることに関しては、まあそういうこともあるだろうと思っていたので、仕方ないくらいにしか感じていなかったのだが、でも、こうやって市民の方々から続投を望まれると、本当に嬉しくなった。わかる人には簡単にわかることだが、なかなか文化的な土台を上げていくことの難しさがわからない人には、文化も政治的な手段のひとつにしかならない。そこが難しい。芸術的に豊かな街にすることは実はつくばのような国際都市を目指し、秋葉原とも45分で今夏から結ばれる距離にある街にとって非常に重要なポイントである。未だに後釜が決まっていないらしく、このままだとせっかく築いた小さな土台が崩れるおそれは十分にあると言える。狭隘な論理で動いてはいけないのだ。とは言え、芸術監督を続投するつもりがあるなら、市長に直接会いに行ってきたい、と言ってくれる人たちもいて、それはそれは嬉しいけれど、そうそう簡単に決定がひっくり返るものではない。いろいろな街の芸術監督たちに話を聞いても、つくばほど難しい地域はないとも言える。不思議な街である。

今日は蚊取り線香と虫さされの薬を購入したからゆっくりと寝られるだろう。
明日をどうするか?考えても仕方がないが、昼から夜までは時間を潰さなくてならない。コーヒーショップが多いならば、そういうところで涼みつつ、考えるなんてこともできるのだろうが、ここでは、まったく考え事をするなんてことは考えられない。混沌の中に放り出され、ただただ唖然とするばかりである。

次第に金銭感覚はインドになってきた。飯は100円もあれば十分に食える。
by kikh | 2005-03-03 23:29 |
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