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★小池博史★演出家・振付家・美術家・作家・写真家

by kikh
 
1/2 故郷へ
 今、父親が施設に入り、母が肺結核で入院しているので、日立に帰る。

 誰もいない家に戻ると、空気は密やかだ。思えば、この家に数日間とは言え、50数年間、誰もいなくなったことはなかったのではないか、と思う。昔は、喧噪に満ちていた。それが今は誰もいない。その事実に改めて驚いた。50年以上も誰かしらはいたのだから。そこは常に帰る場所として存在し、私の故郷はと言ったときに、絶対に忘れることのない絶対的な場所として存在していたのが、この家であった。
 そこに誰もいない。

 正月の実家はだんだん静かになっていった。昔々はそれはそれは大賑わいだった。特に年末。一番多いとき、この家には何人が住んでいたのだろう。10人程度はいたはずであった。それがわっしょいわっしょいやっていたのだ。少しずつ人が減って、いまはただ沈黙の空気が流れるだけで、重い空気がどんよりとたれ込めているような匂いがした。

 しかし、それは仕方がない事実としてある。日立の街も同じだ。街に人が多く住んでいるとは言え、同じく沈んでいった印象のある街である。その雰囲気が今は日本全体を覆おうとしている。
 アーティストはどんな状況でもアートを作るのです、と言うような脳天気なアーティストもいるようだが、しかし、アーティストがアートを作るにはやっぱり環境が必要である。イリヤカバコフというぼくの好きなロシアのアーティストは、ソ連時代は希望に満ちたイラストばかり描いていたのである。つまり、当時はそれしか描けなかったのだ。

 母のいる病院は昔は結核患者ばかりの国立病院であった。長い廊下。冷たい廊下。その冷たく長い廊下を歩くと、ヒタヒタと安物スリッパの音が跳ね返って、多くの昔、亡くなった結核患者たちの声を聞くようである。母は昔、結核を患ったらしい。それがずっと眠ったままになっていて、再び表に出てきたとのことであった。その近くには東海村の原子力発電所がある。放射能を思った。今月、「ガリバースウィフト」で作品に参加してもらうヤノベケンジさんと初ミーティングを行うが、彼は、大阪の太陽の塔跡地を見て育ち、チェルノブイリで放射能スーツを着て歩いた男であるから、どこかしらぼくと共通する感覚を持っているような気もしている。

 深夜帰宅。
 誰もいない実家にはとても泊る気は起こらなかった。
by kikh | 2008-01-04 00:04 | 日々の記録
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