毎日が怒濤の如く流れていく。
忙しいというよりも、やることばかりが多くて、気が急き、整理がついていないということか。
朝9時半からワークショップ。まだまだいいとは言えないが、何かを感じられるようになりつつはある。本来は13時までだが、12時15分までやって、たまおにタッチして、僕は世田谷シアタートラムに向かう。13時半から「ホテルグランドアジア」について、いや、違う、それは昨日だ、今日はアジアの舞台芸術を取り巻く状況に関するシンポジウムとなった。参加者はコーディネーターの吉本さん、フェス側から東京国際舞台芸術フェスの市村さんとソウルフリンジフェスのリーさん、アジアでのネットワーク構築に携わっているファイブアーツセンターのマリオン(彼女は僕の作品にもクアラルンプールで出ている。あ、いや、ここではファイブアーツのマリオンではなく、アジアネットワークアジアのマリオンと紹介しなければならなかった)、アジアアーツネットのスティーブン、アーティスト側から、シンガポールのネセサリーステージのアルヴィン、そして私。
何がアジアか、喋ったことは以下のようなことであった。一部であるが、思い出して書いておく。とても大切なことだと思うからだ。
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「アジア」「アジアの舞台芸術」と括る意味がどこにあるのだろうと、自分自身、よく問うている。
アジアとひとくくりに括れるものは何であるか?地理性と言っても、これは便宜的にヨーロッパに対してのアジアと括られたわけだから、大した意味はないだろう。
「アジア」は多様だとしみじみと思う。ヨーロッパのEUのようにキリスト教を核としての集合体を作るなどということも不可能だろう。宗教は混沌とし、民族も混沌とし、文化にしても、大きな相違がある。アジアと括って、何か共通なものがあると思いたがるのも分かるが、似ているようで似ていない。が、何かある。確実に何かあるのだ。
ここで、今回のこのプロジェクトの話をしたいと思う。
これはアジアだからこそできたものだろうと思う。これはとても重要な点である。アジアだからこそできた。なぜなら、演出家ばかりでこういうことを試みようし、それを遂行し、そしてほとんどエスケープするアーティストが出ないまま、3年もの長きに渡って実行し得た、ということに対してである。
と言うのは、その根底に、わずかながらもこういう事が可能となる可能性があると信じたアジア人が多いということだ。果たして企画者がヨーロッパ人だったら、考えたか?そして、それに向かって集う、各々の国に於いてそれぞれエスタブリッシュされた演出家がいたかどうか?そう思うと、これはアジアならではのプロジェクトだったのではないかと思う。
つまり、その根底にあるのは、私はアジア的な混沌と許容の精神なのだろうと思うのである。先日までインドにいたが、ホテルグランドアジアを見、そして昨日、話を聞いて、これはインドの混沌そのものだ、そしてそれをやってのけてしまう許容力にものすごく感心したのである。
つまり、アジアの舞台芸術を考えるとき、この視点を外してはならないだろう。混沌と許容はどこから来るのか?ひとつの輪廻思想からの発想ではないか?もちろん宗教はさまざまであって、一神教のキリスト教もイスラム教もあるが、アジアではまだまだ、宗教は土着的神話と合体して、単なる一神教とはなっていないだろう。自然と常に合体した視点も忘れてはなるまい。ずいぶん変りつつはあると思うけれど、自然の中の身体という発想をアジアでは持ち得ている。もちろんアジアばかりではない。南米に行ってもそうだ。揺らぎの身体とでも言えばいい。
そして、アジアには混沌がある。日本はまるで純粋培養のような国と考える方もいるかもしれないが、これだけさまざまな新しい文化をいつの間にか不気味に消化吸収してしまう国もそうそうあるものではない。混沌を消化して別物に変えてしまう国もあれば、混沌を混沌のまま残していく国もある。
だからこそ、アジアの舞台芸術は無意味な部分を多く保有し得ている。無意味とは感性レベルのことを言っている。動きはこうこうこういう意味がある、と言われても、一応の理解でしかないのではないか、と思うのだ。一応の理解は方便である。しかし、無意味こそが最も強く、最も深い。
とてもアジア全般の舞台芸術で、面白く思うのは、時間の感覚と、無意味に対する感性に対してである。そこに何か将来の身体の可能性を開く契機が潜んでいるのではないかと思う。
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とまあ、なんとなく、こんなことを喋った。
それから、アジアアーツネットの件で、吉本さん、スティーブン、パブリックの松井さん、私での簡単なミーティング。
みなみなと別れを惜しみ、電車に乗ると、また乗り過ごす。
最近は、座ると寝てしまう。
今日は福岡で地震があったらしい。
本格的に地震対策は考えた方がいいなあ。
注;「ホテルグランドアジア」とは
世田谷パブリックシアターの松井さんがプロデューサーとなって、アジアの各々すでにエスタブリッシュされた演出家を16名集め、3年間に渡って、さまざまなワークショップを繰り返した末に製作した作品。今回が最終発表であった。